涼宮ハルヒの喪失〜10years after〜  3章〜俺達の距離感〜

 

375 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 00:26:41.81 ID:RAZTRe0A0
3章〜俺達の距離感〜
キョン「千春。用意できた?」
千春「お父さ〜ん、浮き輪ふくらまして〜。」
キョン「はいはい、浮き輪貸して。」
7月に入って最初の日曜日。休みだというのに今日は朝から騒がしかった。
その原因は一通の手紙が我が家に届いたことから始まる。
それは一昨日のこと。千春と一緒に帰って来てポストを開けると、
パチンコのチラシと見慣れない封筒が入っていた。
千春「お手紙?」
キョン「うん、そうみたい。」
封筒はその辺で売っている茶封筒ではなく、人目見て高値だとわかる
鶴の模様とかが描かれているものだ。後ろには達筆で「鶴屋」と書かれている。
家に入り、千春が「早く読んで」と急かすので読んであげる。

 

380 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 00:31:58.66 ID:RAZTRe0A0
キョン「拝啓、キョン君に千春。元気してるかな!?」
千春「うん!元気してます!」
キョン「こっちはいろいろ大変だけど楽しくやってるさ!千春はちゃんといい子でいるかな?キョン君に迷惑かけてない?」
千春「いい子にしてます!お父さんにも迷惑かけてません!」
こんな文章なのに、流れるような達筆で書かれているから、なんか可笑しい。
鶴屋さんらしいといえば、鶴屋さんらしい。
キョン「さて、今回手紙をだしたのは二人をあるところに招待しようと思ってるのさ!」
千春「しょうたい?」
キョン「遊びに来てくださいってことだよ。えと、最近近くにできた大型温泉施設知ってるかな?テレビでCMしてると思うけど。」
そういや、1ヶ月くらい前から結構騒がれてたな。
中にはプールやスポーツジムもある、かなりの規模のものらしい。
職員室でも女の先生たちが色々話していたっけ。

 

384 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 00:39:05.77 ID:RAZTRe0A0

キョン「それ作ったの、家の会社の系列なんさ。だからそこのプレオープンに二人を招待したいと思います!!」
マジかよ…。鶴屋さんが大学を卒業したあと家業を継いだということは知っていた。
けど、その家業がなにかを俺は全く知らない。
すごい人だとは思っていたが、まさかここまでとは。
キョン「封筒の中に招待券が入ってるから、来れたら来てね!プレオープンは今週の日曜日さ!」
封筒をひっくり返してみると、中から招待券が3枚落ちてきた。
キョン「1枚余計に入れといたから、友達も誘ってくればいいにょろ。あとそこプールもあるから水着持ってきといたほうがいいかも。」

 

389 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 00:45:13.14 ID:RAZTRe0A0

千春「プールだって!お父さん!」
千春のテンションが一気に上がる。今年はまだプール行ってないからな。
キョン「積る話もあるけど、それはまた会う時にね。じゃあ二人とも、めいっぱい楽しんできてね!     敬具」
千春「プール♪プール♪」
千春には読まないけど、この手紙には続きがあった。
「P.Sまだまだキョン君も若いんだからさ!人生を達観してないで、
誰か気になる人でも誘ってみれば?」
気になる人なんて決められないが、俺達のことを1番気にしている人ならわかる。
日頃お世話になっているあいつに、たまには恩返しをしたい。俺は佐々木に連絡を取った。

 

392 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 00:49:44.32 ID:RAZTRe0A0

というわけで、用意を終えた俺と千春は、今日の為に実家から借りてきた
自動車に乗り、まずは佐々木を迎えに行った。
千春「お姉ちゃん、おはよう!」
佐々木「おはよう。今日は楽しみだね。」
千春「うん!あのね、すっごい大きいプールがあるんだって!」
千春が窓から顔だけ出して、佐々木に挨拶する。
キョン「おはよう。」
佐々木「おはよう。今日は誘ってくれてありがとう。」
キョン「荷物貸してくれ。」
佐々木「いいよ、自分でのせるから」
俺は何も言わずに佐々木の肩に下がっているバッグをとる。
佐々木はやれやれという風で、もう何も言わなかった。

 

394 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 00:54:50.78 ID:RAZTRe0A0

佐々木が後部座席に乗り、千春のシートベルトを締める。
千春「一緒に泳ごうね!おねえちゃん!大きい滑り台もあるんだって♪」
千春は昨日の夜から浮かれっぱなしだ。
俺がネットで詳しい場所はどこなのか調べていると、俺の股の間にすわり
「プール見ようよ!ね!お父さん!」とおねだりしてくるので、
俺は、温泉施設のHPにアクセスした。
そのプールが俺の予想していたものより、数倍豪華だった。
波を再現したプールや、長いウォータースライダーまである。
いい年した俺でも少しテンション上がったんだ。
千春のテンションがうなぎ昇りになるのは仕方のないことだ。
「すごい!お父さん!プールなのに海みたいだよ!ザッブーンってなってる!」
と、俺の脚の上で大暴れしていたのが昨日のことだ。

 

397 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:01:10.92 ID:RAZTRe0A0

佐々木の家を出発してから30分くらいの場所にその大型温泉施設はあった。
プレオープンには招待券を持っていない人も先着順で入れるらしく、
入口の前には長蛇の列ができていた。
俺たちも列に並ぶのかと思っていたら、「招待券をお持ちの方」という看板があり
別の入り口からすんなり入れた。
しかも、招待券を持っている人は館内の全設備を無料で使えるらしい。
佐々木「すごいね。その招待券。」
キョン「……」
あまりのVIP待遇に言葉が出ない。
招待券を持たずに来たら、財布から諭吉さんが一人いなくなっていただろう。
千春「ねぇ〜早くプール行こうよ〜!!」
キョン「あ、あぁ!そうだな!こうなりゃヤケだ!」
せっかくの鶴屋さんの好意なんだ。無料だというなら存分に利用させてもらおう!

 

398 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:06:17.25 ID:RAZTRe0A0

更衣室の前で二人と別れ、早々と着替えた俺はプールサイドに来ていた。
人は思っていたより、少ない。どうやら一般客とは入館時間も違うみたいだ。
俺みたいな小市民にこの招待券は荷が重すぎる。ますます気が引けてくる。
砂浜を模したプールサイドで俺が一人体育座りしていると、
千春「お父さ〜ん!おまたせ〜〜!」
水着に着替えた俺の女神(浮き輪付き)が降臨した。
赤い水玉の水着で、腰のところにフリルがついている。
家にある水着が入らなくなった千春のために、俺が選んで買った新品だ。
俺の目に狂いはなかった…!可愛いなんて言葉では形容できない。
だが、可愛いという言葉しか思いつかない俺のボキャブラリーの無さを悔やんだ。
千春「どう?かわいい〜?」
小悪魔のような笑みを見せながら千春が俺に感想を聞く。
キョン「あぁ!似合ってる。とっても可愛いよ。」
千春「えへへ〜。」
努めて平静を保ちながら、俺は千春が望む言葉を掛けてあげた。

 

399 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:12:22.08 ID:RAZTRe0A0

佐々木「もう、千春。一人で先に行かないでって言ったでしょ。」
少し駆け足で佐々木も更衣室から出てきた。
佐々木の水着は、白のビキニで花柄のパレオをつけていた。
陶磁器のように白い肌が、惜しげもなく露出されている。
佐々木は着痩せするタイプらしく、出るところはしっかり出ていて、
引っ込むところは、引っこんでいた。
分かりやすい表現をするなら「ボン キュッ キュッ」という感じだ。
はっきりいって綺麗だった。
佐々木「そこまで見られると、流石の私でも少し恥ずかしいかな。」
佐々木の言葉でトリップしていた脳が正気に戻る。
キョン「そんなに見てた?」
佐々木「そりゃ、もうまじまじと。獣のような目でね。」
佐々木が笑いながら言う。
気分を害してしまったんじゃないかと心配したが、どうも大丈夫のようだ。
千春「早く泳ごうよ〜。ねぇ〜」
千春はもう待ちきれないようだ。
俺の脚をぐいぐい引っ張りながら、プールのほうに行こうとする。
キョン「泳ぐ前に準備運動しないとな。」
千春の浮き輪を外してあげて、三人並んで準備運動をする。
砂浜でそうしていると、まるで本当に海に来たみたいだ。

 

400 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:15:21.76 ID:RAZTRe0A0

千春「きゃ〜〜www」
千春が波打ち際の浅いところで、浮かんでいる。
波に流されながら、漂っているのがどうやら気に入ったらしい。
キョン「千春。そっちは深いから、こっちで遊びなさい。」
少しでも深いところに行こうとすると、キョンが浮き輪を引っ張って
浅いところに千春を移動させる。
何も知らない人が見たら、過保護だと思うかもしれないが、それは仕方のないことだ。
彼は知っているから。かけがえのないものを失う悲しみを。
涼宮さんが亡くなった後のキョンを思い出すと、今でも背筋が寒い。
何かにとり憑かれたように「俺が千春を守らなくちゃ」とうわ言のように呟いていた。
最初は、同情だった。そんなキョンを見ているのが、あまりにも辛かった。

 

401 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:19:30.69 ID:RAZTRe0A0

いつ頃からだろう。三人でいるのが当たり前のようになったのは。
千春の笑顔を見ると心が落ち着くようになったのは。
私が作った料理を二人が食べてくれることに喜びを感じるのは。
キョンと千春が横にいないと眠れなくなってしまったのは。
いつ頃からだったろう。自分でも気づかない内にキョンと千春は
私のかけがえのないものになった。
千春「お〜い!お姉ちゃん!」
キョン「佐々木〜。休んでないで、一緒に泳ごうぜ!」
二人が私を呼ぶ。失いたくない、私の大切な二人。
いつか自分も二人と家族になりたい。その願いが届く日は来るだろうか。
天国の涼宮さんに、少し嫉妬しながら私は二人のところに走る。

 

404 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:24:13.11 ID:RAZTRe0A0

キョン「ふわ〜…疲れた。」
2時間くらい遊んでいたのだろうか。
元気があり余っている千春に振り回されながら、休憩無しで遊び続けた。
ウォータースライダーは保護者同伴なら千春でも滑ることができた。
だから必然的に俺も一緒に滑ることになる。
そのウォータースライダーが想定外に長かった。
さらに千春が気にいってしまい、連続5回滑るはめになった。
途中佐々木に代わってもらおうと思ったが、「流れで、水着がとれちゃいそうだから」
という至極真っ当な理由で拒否された。残念だなんて思っていない。
佐々木「お疲れさま。大変だったねwww」
佐々木が持ってきた水筒から、お茶を注いでくれる。
キョン「サンキュ〜…もうくたくただよ。」
冷えた麦茶が喉に染みる。
千春「お姉ちゃん。千春も〜。」
佐々木「はいはい。ちょっと待っててね。」
プールで遊んでいる人も増えてきている。一般客の入場も始まったみたいだ。
時間は12時を少し過ぎたくらいだ。そう思うと急に腹が減ってきたな。

 

406 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:29:05.88 ID:RAZTRe0A0

キョン「そろそろ昼ごはんにしようか。招待券あるから、レストランも無料だし。」
佐々木「あ…。」
キョン「ん?どうかしたか?」
佐々木「いや、なんでもないよ。混んでくる前に移動しよう。」
何か変だな。なんか隠してないか?こいつ。
そういや佐々木が持っているバッグ、やけに膨らんでいるな。
水筒以外にもなんか持ってきてるんじゃないのか?
キョン「佐々木。ちょっとバッグ貸してみ。」
佐々木「…どうして?」
キョン「いいから。」
佐々木がバッグを差し出す。中には水筒と弁当箱が入っていた。
キョン「作ってきてるなら言えよ。無駄にするところだったじゃないか。」
佐々木「でも、お弁当よりレストランの料理のほうがいいだろう?」
キョン「そんなことあるかよ。な、千春!」
千春「うん!千春もお弁当の方がいい!」
佐々木が朝早くから、作ってくれた弁当。
どんなフルコースよりも俺には御馳走だ。そして、それは千春も同じだ。
佐々木「千春、本当にいいの?レストランだったら暖かいご飯食べられるよ。」
千春「千春は、お姉ちゃんの料理がいいの!」
キョン「だってさ。観念するんだな。」
千春「かんねんするんだな!」
千春が俺の言ったことを、ふんぞり返りながらマネする。
佐々木「全く…二人とも馬鹿だよ。」
そんな俺たちを見て、佐々木が笑ってくれた。
今みたいな、佐々木の笑顔が見れるなら一向に馬鹿でも構わない。

 

408 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:30:57.91 ID:RAZTRe0A0

昼ごはんを食べ終えた俺達は、ここのメインでもある温泉に入ることにした。
俺が千春の着替えやタオルを用意していると、
千春「お父さん。千春、あのお風呂入りたい。」
というので、千春の指さす先を見ると、そこには「かぞくぶろ」という文字があった。
キョン「いや、あのな千春。家族風呂っていうのはな…。」
微妙にアダルティーなニュアンスを含むこの言葉を、親として子供にどう説明すべきか。
佐々木「いいじゃないか、キョン。入ってあげれば?」
キョン「え!?お前、いいのかよ!?」
どっちかというとお前の方が、嫌がる立場なんじゃないか!?
佐々木「だってほら、水着着用可って書いてあるし。」
のれんの横にある看板を見ると、確かに「水着のお客様でもお入りいただけます」とある。
キョン「いや、でもほら今日はプレオープンだし。家族風呂には入れないんじゃないか?」
俺は俺なりに抵抗を試みる。
佐々木「すいません。家族風呂を使いたいんですけど、使えますか?」
受付「本日は招待券をお持ちの方のみ、ご利用いただけます。」
だが、必死の抵抗も無駄に終わった。
佐々木「千春、家族風呂入れるよ。」
千春「やった〜!お姉ちゃんありがと〜!」
キョン「マジかよ…。」

 

410 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:32:40.92 ID:RAZTRe0A0

キョン「ふぅ〜…。」
いったいどうしてこんなことになってしまったんだろう。
風呂につかりながら、俺は考える。
いくら水着とはいえ、未婚の男女が一緒の風呂に入るなんて。
こんなことが、もし学校側にばれたら…。
考えれば、考えるほどに鬱になる。
というか、どうして佐々木は反対しなかったんだろう。
もしかして、俺のことなんて置物程度にしか思ってないのだろうか。
それは、それで傷つくな…。俺だって腐っても男なわけだし。
佐々木「キョン、入るよ。」
キョン「あ、あぁ!」
気にすることはない。ただ水がお湯になっただけのことじゃないか。
引き戸を開けて入ってきた佐々木は。体にバスタオルを巻いていた。
キョン「……っおい!お、お前水着は!?」

 

411 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 01:34:42.04 ID:RAZTRe0A0

佐々木「タオルの下に着てるけど?ホラ。」
そう言って、タオルの前の部分をはだける。
確かに中には水着を着ている。湯気のせいで、まるで着てないように見えた。
千春「おふろひっろ〜い!プールみたい!」。
千春は水着を脱いで、裸になっていた。走りながら浴槽に入ろうとする。
佐々木「駄目だよ、千春。先に体洗わなくちゃ。」
キョン「俺が洗うよ。というか俺も、体洗わずに入ってたwww」
緊張のあまり、つい忘れていた。意識しすぎだ。高校生じゃあるまいに。
千春「お父さんも忘れてたの?千春とおんなじ!」
佐々木「本当に…似たもの親子なんだから。」

 

439 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 08:24:36.57 ID:RAZTRe0A0

さるったんで寝ました。起きててくれた方々申し訳ないです。

キョン「はい、千春ばんざいして。ばんざ〜い。」
千春「ばんざ〜い!」
千春の体をまんべんなく洗っていく。
白くて柔らかい肌は、少し力をいれたら壊れてしまいそうだ。
俺と同じ人間だとは、とても思えない。
キョン「今度は後ろ向いて。」
お尻にまだ少しだけ蒙古斑が残っている。
いずれこの痣も消えるんだろうな。そしてその頃には小学校に入学して、
あれよあれよという間に卒業して、中学生になって、男を連れてきたりするんだろうな…。
千春「どうしたの?お父さん?」
キョン「いや、なんでもないよ。」
ちょっとだけ目頭が熱くなった。今の内からこんなこと考えるのは止そう。
佐々木「キョン背中流すよ。」
キョン「え?」
そう言うと、佐々木が俺の背中を洗い始めた。
キョン「ちょ!?佐々木?いいよ!自分で洗うからさ!」
佐々木「いいから、ね?」
お前みたいな美人に、上目使いでお願いされたら断る気も無くなる。
誰でもいいから、俺の意志の弱さを鍛えなおしてくれ。

 

441 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 08:28:27.75 ID:RAZTRe0A0

キョン「千春、お湯掛けるよ。目つぶって。」
千春「は〜い!」頭の上からお湯を掛ける。千春が顔を振ってお湯を払う。
そして千春が俺の後ろを覗きこむ。
千春「お父さんも洗ってもらってるの?」
キョン「うん。そうだよ。」
千春に後ろめたさを感じてしまう。何も悪いことはしていないのに。
千春「お父さん、ゴシゴシ貸して。」
ゴシゴシとは体を洗うのに使うタオルのことだ。
それを千春に渡すと、俺の後ろのほうに走っていく。
すると、「千春?お姉ちゃんは自分で洗うからいいよ。」という声がする。
振り返ると、千春が佐々木の背中を洗っていた。

 

444 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 08:31:42.42 ID:RAZTRe0A0

千春「いいの!千春をお父さんが洗ってくれたでしょ、それでお父さんをお姉ちゃんが
洗ってるでしょ、だから千春がお姉ちゃんを洗うの。」
佐々木「ふふっ。じゃあ千春、お願いしていい?」
千春「もっちろん!」
三人が縦に並んで背中を洗いあう。でも、これは、なんというか、
佐々木「なんだか猿の毛繕いみたいだ」
キョン「お前もそうおもう?wwww」
佐々木も同じことを考えていたらしい。
「「くくくっwwwww」」二人で声を潜めて笑う。
千春「なんで笑ってるの?ねぇ?どうしたの?」
キョン「はぁあ〜…おっかしいwww」
佐々木「何でもないよ、千春」
俺と佐々木は笑いを堪えながら、大人しく背中を洗ってもらうことにした。

 

445 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 08:34:59.71 ID:RAZTRe0A0

そのあとも招待券を存分に利用し、施設を遊びまわった。
今は帰りの車内だ。開け放した窓から入ってくる風が火照った体に気持ちいい。
千春の寝息が後部座席から聞こえてくる。
佐々木「よっぽど楽しかったんだろうね。寝ながら笑ってるよ。」
佐々木は千春に膝枕しながら、頭を撫でている。
キョン「前の日から楽しみにしてたからな。無理ないさ。」
佐々木「ねぇ、キョン。私たち三人、何も知らない人からみたらどう見えるのかな…?」
キョン「シングルファザーとその女友達…には見えないだろうな。」
俺は意識的に言葉を選んだ。どういう風に見えるかなんて聞くまでもないだろ。
佐々木「もしかしたら、家族に見えていたかな?」
キョン「かもな…。」
佐々木「そう…。だったら嬉しいかな。」
何が言いたいんだ。その先の言葉は聞きたくない。
佐々木「キョン、君は私に何を望む?もし君が望むのなら、私は…君と千春の家族に」
俺達はこのままでは居られなくなる。どちらかが今以上を望めば壊れてしまう。
キョン「俺は何も望まない…!ただ今のままがいい。それだけだ。それ以上はいらない。」
壊したくない、今の俺とお前の関係を。
佐々木「…ごめん、変なこと言って。」
そのあと俺達は家に着くまで一言も会話をしなかった。
こいつとの沈黙を気まずいとは思ったのは初めてだった。

 

447 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/25(月) 08:40:09.33 ID:RAZTRe0A0

ベランダに出た俺は煙草に火をつける。部屋では佐々木と千春が並んで寝ている。
千春が生まれてから禁煙していたが、今日はなんとなく吸いたい気分だ。
煙を肺まで入れ、吐き出す。
煙と一緒に、胸の中の嫌な気分も吐き出せないかと期待したが、無駄だった。
佐々木の気持ちに、俺は見て見ぬフリし続けてきた。
それを佐々木本人の口から聞いても、俺は今の関係を望んだ。
今の生活が壊れてしまうのが、怖い。
それに、まだ俺の心には「ハルヒ」がいる。
無駄だと分かっていても、それでも、「ハルヒ」がいるんだ。
佐々木だけじゃない。霧島も俺に自分の想いを伝えてくれた。
そんな彼女たちの真っ直ぐな想いに俺は応えられるのだろうか?
例えどんな結末が待っていたとしても受け入れる覚悟が俺にはあるのか?
俺はこれから、どうすればいいんだろう?なぁ、ハルヒ。…答えてくれよ。
その夜一人で考えたが、答えなんて出るわけもなかった。
3章〜fin〜