涼宮ハルヒの喪失〜10years after〜 終章 T〜Dearest〜

 

 

877 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 10:30:37.20 ID:ZuAQE2Md0

終章 T〜Dearest〜
「「いただきます」」
二人で手を合わせ、ご飯が食べれる有り難味を神様に感謝する。
今日の晩御飯は、俺特製のスパゲッティーだ。
巷では、パスタなんか呼ばれているらしいが、これはスパゲッティーだ。俺はそう教わった。
キョン「おいしいか?」
千春「うん。」
ここのところ千春にあまり元気が無い。原因は分かっている。
佐々木が家に来る頻度が目に見えて減ったからだ。
週に1度は必ず顔を見せてはくれるが、前に比べれば明らかに少ない。
こんなことは今まで、5年間一緒にいて1度も無かった。
そして佐々木が家に来なくなった原因も、明確だ。
俺の曖昧な態度のせいで、佐々木を傷つけている。

 

879 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 10:38:23.50 ID:ZuAQE2Md0

千春「お姉ちゃん、最近来ないね・・・。」
キョン「そうだね。」
千春の食べる手が止まる。
千春「もしかして、千春のこと嫌いになったのかな?」
涙声で千春がそんな事を言う。
キョン「そんなことないよ。お仕事が忙しいんだって。」
千春の不安をなくすために頭を撫でてあげる。千春のぐずつく声が聞こえる。
千春にとって、佐々木は母親同然の存在だ。
母が近くにいない子供がどれだけ不安なのか。
俺はそれを最近学んだ。俺の我儘のせいで千春まで不安な気持ちにさせている。

 

881 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 10:46:40.08 ID:ZuAQE2Md0

キョン「また、家に来てくれるさ。ね?」
千春「うん。」
だが原因が分かっているからといって、俺に何が出来る?
「どうすろのが1番いいのか」は俺だって分かっている。
千春も、佐々木も、幸せになれる方法は俺が望めば手に入るものだ。
かといって、それでいいのか?
自分の気持ちに嘘をついて、佐々木の気持ちを知りながら利用して、
そして都合よく幸せを手に入れるのか?そんな不実なことが許されるのか?
そんな聖人君子みたいなことは言い訳だ。結局のところ俺は「今」の生活が壊れるのを恐れているんだ。
弱くて、情けなくて、汚い小市民に過ぎない。それでも俺は今ある幸せを壊したくないんだ。

 

882 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 10:53:46.87 ID:ZuAQE2Md0

異変が起きたのは、翌日の朝だった。
いつものように俺が千春を起こしにいく。
キョン「千春。朝だよ。」
返事が無い。本当に寝つきがいい子だ。
キョン「千春〜。遅刻するぞ。」
いつもならこの辺で、ベッドから起き上がるのだが、まだ反応が無い。
キョン「千春?どうした?」
千春「はぁ・・・はぁ・・・お父さん。」
キョン「千春!?」
顔が赤く、息も荒い。おでこに手を当てる。かなりの熱だ。

 

884 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 11:01:59.56 ID:ZuAQE2Md0

千春「今、起きるから。」
キョン「いいから、寝てなさい。」
正確な熱を測るために、俺は救急箱から体温計を取り出す。
千春「幼稚園、行かなきゃ・・・」
キョン「今はいいから。はい、これ銜えて。」
千春の口に体温計を銜えさせる。少しだけ咳も出ているみたいだ。
アラームが鳴り、体温計を見る。38度5分。
千春「ケホッ!ケホッ!」
キョン「大丈夫か!?」
台所から冷えたお茶を持ってきて、千春に飲ませる。

 

886 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 11:15:47.10 ID:ZuAQE2Md0

千春「お父さん、ごめんね」
キョン「いいんだよ。今日は幼稚園お休みしよう。」
とりあえず、病院に連れて行かないと。おそらくただの夏風邪だと思うが。
最悪の事態も考えられる。これ以上俺は失くしたくない。
キョン「千春。病院に行くから。立てる?」
千春「うん。」
少しふらふらして、足元がおぼつかないが立ち上がる。
そんな千春を俺はおんぶする。
交通量が多い道路まで出た。俺はタクシーを拾った。
運転手「どこまで行きます?」
まだ朝も早いから、かかりつけの病院は開いてないだろう。
キョン「子供が風邪なんです。1番近い救急病院に行ってください。」
運転手「この辺だと、あの病院かな。」
タクシーが走り出す。通勤時間帯なので車の量は多かったが、幸い渋滞も無く15分程で病院についた。

 

890 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 11:26:29.57 ID:ZuAQE2Md0

その病院は、この辺で1番大きい病院で、ハルヒが亡くなった場所でもある。
今そんな縁起も無いことを考えてどうする。早く千春を医者に診せなければ。
「救急の方はこちら」という看板の下にある、インターフォンを鳴らす。
すると、看護婦らしき人が来て自動ドアを開ける。
看護婦「どうされました?」
キョン「朝起きたら、子供が急に熱出して、咳も少ししてるんです。」
看護婦「小児の患者さんですね。そこで座ってお待ちください。」
備え付けのソファーに俺は千春を寝かせる。
千春「はぁ・・・はぁ・・・」
息が荒く、さっきから何も喋らない。
キョン「千春。大丈夫か?病院着いたからな。」
千春「うん。大丈夫だよ。」
それでも俺を不安にさせまいと千春は笑顔で俺に答える。

 

893 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 11:41:56.44 ID:ZuAQE2Md0

看護婦「お待たせしました。こちらへどうぞ」
看護婦さんに案内され、診察室へと向かう。
その後の検査は簡単なものだった。
千春の症状について問診され、身体検査をいくつか行い、
医者「夏風邪ですね。最近この辺で流行ってるんですよ。」
とりあえずは安心した。最悪の事態だけは回避された。
医者「でも少し熱が高いからね。安心するのは早いですよ。」
それを指摘される。俺は今そんなにも安心した顔をしたのだろうか。
医者「抗生物質出しておくから。あと水分補給は小まめにしてあげてください。」
キョン「あの、解熱剤とかは?」
医者「子供に解熱剤はやめたほうがいいです。市販の保冷剤で十分ですよ。」
本職が言うならそうなんだろう。素人が口を出すべきではない。帰りに冷えピタを買わなければ。
医者「とりあえずは安静です。少しでも容態が悪くなったら、すぐ来てください。」
キョン「はい。ありがとうございました。」
医者「はい。お大事に。」
看護婦「お大事に。」

 

894 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 11:50:01.92 ID:ZuAQE2Md0

処方箋をもらい、受付の前で待つ。俺が来たときには誰もいなかったが
今は高齢者の方でごった返している。朝の病院ってこんななんだな。
テレビを見てみると、スッ○リが流れていた。ちょっと待て。今何時だ?
携帯を取り出し、時間を見る。8時10分。朝礼は8時30分から。まずい。
そのまま携帯から電話を掛けようとするが、
看護婦「院内での携帯電話のご利用はご遠慮ください。」
と注意されたので、俺は千春をおぶったまま公衆電話へ向かう。
国木田「はい、こちら東高です。」
キョン「国木田か。俺だ。」
国木田「キョン。今日は遅いなと思ったら、どうしたの?」
キョン「千春が夏風邪でな。今日は行けそうも無いみたいだ。」

 

896 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 12:00:40.93 ID:ZuAQE2Md0

国木田「また主任から嫌味言われるよ?」
キョン「仕方ないさ。子供の方が大事だ。」
前も千春関連で1度だけ休んだが、1週間くらいチクリチクリと嫌味を言われ続けた。
国木田「分かった。うまいこと言っておくから。お大事にね。」
キョン「悪い。今度何かで返すわ。」
国木田「いいよ。無理しなくて。家計厳しいんだろう?」
余計なお世話だと言いたいが、実際に厳しいので何も言えない。
国木田「お大事にね。」
キョン「ありがとうな。」
そこで、ブツッと公衆電話が切れ、ツーツーという電子音が流れる。

 

897 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 12:15:34.71 ID:ZuAQE2Md0

その後、千春の幼稚園にも連絡を入れる。
どうやら幼稚園でも夏風邪が流行っていたらしく、
こちらの体調管理が甘かったと恐縮してしまう位、謝られた。
薬を受け取り、もう1度タクシーを止め、一旦家に帰る。
実家に行こうかとも考えたが、止めにした。
ただでさえ苦労させてるのに、あまり心配かけたくなかったからだ。
家に着き、千春をベッドに寝かせる。
キョン「お父さん、今からお買い物してくる。すぐ戻るからね。」
千春「すぐ戻ってきてね。約束。」
いつもなら、「うん!お留守番してるね!」と元気に答える千春だが
心身ともに弱っているのだろう。
キョン「すぐ帰ってくるよ。約束だ。」
俺は千春との約束を全て守ってきたし、千春も俺との約束を破ることは無かった。
俺と千春にとって「約束」は儀式みたいなものなんだ。互いを信頼し合うための。

 

899 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 12:25:10.51 ID:ZuAQE2Md0

必要だと思うものは全て買い揃え、俺はスーパーを出る。
あれも、これも必要なんじゃないかと不安になり、5000円以上使ってしまった
備えあれば憂い無しという言葉もある。多いに越したことは無い。
家に帰ると千春は眠っていた。まだ少し息は荒いが、気持ちよさそうに寝ている。
その、小さいおでこに保冷剤を貼る。すると千春が目を覚ます。
千春「お父さん・・・お帰りなさい。」
キョン「ただいま。起こしちゃったかな?」
千春「ううん。大丈夫。」
キョン「何か欲しいものある?プリンも買ってきたよ。」
千春「お父さん。お父さんがいればいい。」
キョン「分かった。お父さんここにいるよ。」
千春「うん・・・。」
千春が笑顔になり、そしてまた目を閉じた。

 

902 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 12:31:10.20 ID:ZuAQE2Md0

その後も千春は寝たり起きたりを繰り返し、俺は水をあげたり、保冷剤を変えたりと看病していた。
そうやって色々していると、日頃の疲れのせいか、昼過ぎ急に眠気が襲ってきた。
寝たら駄目だと、眠気を振り払っていたが、自分でも気づかないうちに俺は寝てしまっていた。

 

903 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 12:41:03.90 ID:ZuAQE2Md0

はっと目が覚める。時計を見るともう5時過ぎだった。3時間くらい寝ていたことになる。
千春は大丈夫か?俺はベッドを見る。
千春「はぁ・・・はぁ・・・お父さん。」
すると、パジャマが汗でぐっしょり濡れている。前見たときよりも苦しそうだ。
キョン「千春!?大丈夫か!?」
千春「うん。ちょっと暑いだけ・・・。」
熱は少し引いたようだが、汗が凄い。それに、なにより息苦しそうだ。
キョン「どうして何も言わなかったんだ?」
千春「お父さん・・・気持ちよさそうに寝てたから。」
自分が苦しいのに、それでも俺の事を考えてくれる千春に涙が出そうになった。
まず、汗を拭かないと。俺はタオルを濡らし千春の顔を拭く。
それでも、まだ千春は苦しそうなままだ。どうしてだ?ただの風邪なんだろ?

 

905 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 12:53:45.79 ID:ZuAQE2Md0

キョン「千春?苦しい?」
千春「ううん、平気だよ。」
千春の声から生気が無くなる。嘘だろ。あの光景が思い出される。
俺の目の前で、命の灯火が消えたハルヒのことが。
キョン「千春!千春!」
俺の呼びかけにも答えてくれない。やめてくれ、神様。俺から千春を奪わないでくれ。
キョン「千春、返事をしてくれよ!!千春!!」
俺は何も望まない。俺には何があっても構わない。だから、お願いだ。
キョン「千春がいてくれればいいんだ・・・俺は何もいらない!だから千春!」
返事をしてくれ。もう俺はこれ以上悲しみに耐える自身が無い。
その時、俺は何かの音を聞いたが、確かめる余裕など無かった。
千春「おね・・・ちゃ・・・ごめ・・・なさい。」
千春が何かを言い、そして目を閉じる。
キョン「千春!千春!」

 

909 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 13:09:26.81 ID:ZuAQE2Md0

俺が千春を病院へと運ぼうとする。だが
千春「すぅー・・・すぅー・・・」
千春の呼吸音が聞こえる。さっきのような苦しそうな呼吸では無くなっている。
熱も引いていて、汗も止まっていた。どうやらまた眠ってしまっただけのようだ。
キョン「はぁああああ〜〜〜・・・」
ため息が漏れる。良かったという気持ちが心の底から湧いてくる。
よくよく考えてみれば、単に汗をたくさん掻いたから疲れていたんだろう。
それでも、生きた心地がしなかった。また俺は何もできないのかと自責で押しつぶされそうだった。
とにかく、千春は無事で俺の考えすぎだった。びしょ濡れのパジャマを着替えさせようと思い
脱衣所へ向かう。千春の部屋の前に中身が入ったスーパーの袋が落ちていた。
中身は、食材で俺と千春の好きなものばかり入っている。
俺と千春の好みをここまで詳しく知っている、あいつ。来ていたのか。
玄関を確認したが、それらしい靴は無い。家中探してみたが、あいつの姿は見当たらなかった。

 

912 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 13:19:03.29 ID:ZuAQE2Md0

それから千春は、夜まで目を覚まさずに穏やかに寝ていた。
熱も微熱程度にまで落ち着いた。一安心だが油断はできない。
またさっきみたいなことが起こるかもしれない。
だから今日は千春のベッドの横に布団を敷き眠ることにした。
これなら不測の事態にすぐ対応できるし、千春が夜に起きても不安にならない。
いつもより早いが、夜の10時に俺も布団に入る。
慣れない看病で疲れていたのか寝入るのに、そう時間は要らなかった。

 

913 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 13:34:17.18 ID:ZuAQE2Md0

目が覚める。俺は自分の書斎の床に寝ていた。どういうことだ?俺は千春の横で寝ていたのに。
寝ぼけて、そのまま寝てしまったのか?
時刻は深夜2時。寝つきのいい俺がこんな変な時間に目覚めることはまず無い。
誰にも起こされていないが、誰かに起こされたような感覚がした。自分でも言っててよくわからない。
何があったかは分からんが、千春の部屋に戻ろう。だが俺は異変に気付いた。
おかしい。こんなことは普通ならあり得ない。窓の外を見ると、街灯が全て消えている。
書斎の窓からは国道が見えるのだが、そこの街頭が全て消えている。
窓を開け、空を見る。今日はあんなに晴れていたのに星一つどころか、月も見えない。
まさか、ここは閉鎖空間なのか?
そのとき、書斎においてあるパソコンからブーンと音がする。ディスプレイの電源が入っている。
すると左端のカーソルが動き、文字が出てきた。
YUKI.N>みえてる?

 

916 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 13:48:08.28 ID:ZuAQE2Md0

デジャブに襲われ、しばし呆けていた俺は、すぐにキーボードに文字を打ち込んだ。
『あぁ』
YUKI.N>あなたは今閉鎖空間に居る。作り出したのは千春。
『千春は世界の崩壊を望んでいるのか?』
YUKI.N>違う。千春が望んでいるのは世界の崩壊ではない。
『ならば、なぜ閉鎖空間を作ったんだ?』
YUKI.N>千春が望むのはあなたの幸せ。
『答えになってないぞ。』
YUKI.N>順序立てて説明する。あなたは今幸せか?
『自分ではそう思っている。』
YUKI.N>なぜ?
『千春が元気でいてくれるからだ。』

 

917 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 13:57:03.39 ID:ZuAQE2Md0

YUKI.N>子供の幸せは親の幸せ
『その通りだよ。』
YUKI.N>だが親が幸せでなければ、その子供は幸せではない。
『俺は幸せだと言ってるだろうが。』
YUKI.N>あなたはそうかもしれない。だが親は1人でない。二人。
『ハルヒはもういないんだぞ?』
YUKI.N>涼宮ハルヒではない。千春にとって親同然の人物のこと。
『佐々木のことか?』
YUKI.N>彼女は今あなたへの想いで、絶望に暮れている。
『返す言葉が無いよ』
YUKI.N>それを千春は自分のせいだと思い込んでいる。自分がいるから幸せになれないのだと。

 

920 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 14:15:59.20 ID:ZuAQE2Md0

YUKI.N>閉鎖空間が出現するようになったのはおそらくそれが原因。
一緒に暮らしていながら、俺は全く気付けなかった。千春がそんなにも苦しんでいたなんて。
YUKI.N>そして千春は自ら、自分の存在を否定している。
『だから、閉鎖空間を作ったのか。』
YUKI.N>故人を想うあなたを誰も否定はできない。けれど今あなたのことを想う人がいる。
『分かってるよ。』
YUKI.N>あなたは決めければならない。受け入れるか拒否するか。でなければ千春はこの世界から消える。
いつまでも、このままではいられない。俺は覚悟を決めた。

    

921 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 14:25:58.89 ID:ZuAQE2Md0

『ありがとな、長門。背中押してくれて。』
YUKI.N>礼には及ばない。謝罪すべきは私。
『じゃあ今のでチャラだ。それでいいか?』
返事が書き込まれるのが遅くなる。
YUKI.N>了解した。
『今、お前はお前なのか?』
陸奥との関係性を聞きたいのだが、上手く言葉に変換できない。結果よく分からん質問になった。
YUKI.N>陸奥ゆうきがこれに気付くことはない。安心して。
長門は俺の質問を理解し、その先の俺が聞きたかった答えまで教えてくれた。
YUKI.N>私が私として、あなたに接触するのはおそらくこれが最後になる。
『どういうことだ?』
YUKI.N>陸奥ゆうきが確固たる自我を持てば、私は完全に陸奥ゆうきとひとつになる。

 

924 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 14:47:00.51 ID:ZuAQE2Md0

YUKI.N>だから、よろしく。
『こちらこそ。じゃあ明日、部室でな』
YUKI.N>また部室で。

それっきりディスプレイには何も現れなくなった。
音も無い暗闇が訪れる。だが一つだけ聞こえる。すぐ近くから。千春の泣く声が。
俺は書斎を出て千春の部屋に行く。そこには青白く光る、小さい神人がいた。
部屋の端っこでうずくまっている。千春の泣く声はそこから聞こえた。
キョン「千春…ごめんな。」
俺は神人を後ろから抱いて、抱っこする。
キョン「全部お父さんのせいだったんだ。千春は悪くないよ。」
背中を優しくさすってあげる。
キョン「お姉ちゃんは千春のこと嫌ったりしないさ。」
神人を作る青白いものが、光になって消えていく。中から千春が姿を表す。
千春「ぐずっ・・・ほんとに、お姉ちゃん千春のこと嫌いじゃない?」
キョン「うん。そんなことあるわけないだろう。」
千春「でも、お姉ちゃん、お家来てくれないもん・・・」
キョン「お父さんがなんとかする。約束だ。」
絶対になんとかしてみせる。だから俺は千春に約束する。
千春「約束?」
キョン「うん。約束。」
千春「約束だよ。」
千春に笑顔が戻ったその時、目を開けていられない程の光に包まれた。
その時、一瞬俺はハルヒの姿を見たような気がした。

 

927 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 15:00:01.08 ID:ZuAQE2Md0

目を覚ますと、俺は千春の部屋にいた。
ベッドを見てみると、そこに千春の姿が無い。
布団をどかしてみても、千春がいない。
そんな、あのまま消えてしまったというのか。
千春「お父さ〜ん!!お早う!!」
いきなり耳元で叫ばれたものだから、耳が痛い。
キョン「千春。身体はもういいのか?」
千春「うん!元気!」
1日ぐっすり寝て風邪も、治ったようだ。
千春「お父さん!ありがとうね!」
キョン「何が?」
千春「夢の中で千春が泣いてたら、お父さんが助けに来てくれたの。だからありがとう!」
キョン「前に約束しただろ。千春が泣いていたらどこにでも助けにいくって。」
千春「うん!」
100点満点なら、200点挙げたいくらいの笑顔だった。
俺は布団から這い出し、まずテレビをつける。そこには大塚さんではなく小倉さんがいた。
時間は8時20分だった。
キョン「千春急いでご飯食べなきゃ!遅刻するぞ!」
千春「ご飯できてないよ〜。」
最低でも千春に朝ごはんは食べさせないと。朝礼は確実に遅刻だな。俺は急いで朝ごはんと弁当作りにとりかかるのだった。

 

928 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 15:17:34.76 ID:ZuAQE2Md0

目覚ましが鳴る。仕事の準備をする時間だが、身体を起こす気が起きない。
昨日、国木田から連絡を受け、千春が風邪だと聞きキョンの家に行った。
そしてキョンは言った。千春以外は何もいらないと。私が来たことなんて気付かずに。
キョンの心の中に少しくらいは自分がいると思っていた。でも自惚れだった。
彼の中には、今でも涼宮さんがいて、私なんて存在していない。
彼や千春のことを想うと、こんなにも胸が苦しいのに。
それでも私は彼を憎むことはできない。彼を消すことができない。
愛しているから。この想いだけは変わらない。
忘れてしまえれば、どれだけ楽だろう。
だが、もし忘れることが出来たとしても、私は忘れないだろう。
彼と過ごした5年間は、紛れもなく私の人生の中で最も満ち足りていた時間だから。


931 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 15:37:18.19 ID:ZuAQE2Md0

学年主任から、1年分に相当する嫌味を言われた俺は、なんとかHRに遅刻することなく教室に着いた。
教室の前では吉川が待っていた。
吉川「お帰り。キョン。」
こいつは、夕べのことも全て知っているんだろうな。
吉川「大変だったんだよ、昨日。監視対象が消えちゃってさ、進化の可能性が消えたって大騒ぎだったんだから。」
キョン「それは、苦労かけたな。」
一切申し訳ないなんて想ってないがな。むしろざまみろだ。
吉川「帰ってきたときは、ほっとしたよ。」
キョン「お前はこれからどうするんだ?」
吉川「ん?監視対象がキョンに変わっただけ。だからまたよろしくね。」
もう帰るのかと考えていたがあてがはずれた。俺の腕を叩きながら、ゾッとしない言葉を口走る。
霧島「何の話してんのよ?」
霧島が教室から顔を出す。今の話全部聴かれてたのか?
吉川「ゲームの話。キョンも持ってるから色々聴いてたの。」
吉川が機転をきかせて嘘をつく。だが霧島はどうも信じていない。
霧島「ふ〜ん・・・まぁいいけど。」
疑いのまなざしを俺らに向け、教室に戻っていく。
吉川「とりあえず、お疲れ様。朝倉涼子もお疲れだってさ。」
吉川が手をヒョイと上に上げる。なので俺は、
キョン「あぁ、お疲れ様!!」
その手を思い切りハイタッチしてやった。
「「いたぁああああ!!!」」

 

932 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 15:48:09.03 ID:ZuAQE2Md0

放課後になって、俺は職員室にいる。朝から佐々木に何度も電話を掛けているが、出てくれない。
もしかしたら、掛かってきているかもと確認してみたが、無駄に終わった。
あまり時間も無い。早くに部室に行かなくては。部室では俺を待っている人がいる。
俺は今から、自分の想いを伝えに行く。俺のことを好きだといってくれたことに応えるために。
それで傷つけるかもしれないが、それを受け入れる覚悟はもう出来た。
部室の前に着く。大きく深呼吸をして俺は部室のドアを開けた。
陸奥「こんにちは、先生。」
霧島「遅かったじゃない。どうしたの?」
そこには二人の女の子がいた。どちらともタイプは違うが、とても魅力的な娘だ。
キョン「二人に少し話があるんだ。」
その二人に俺は今自分が想うことを全て言う。それが俺がだした答えだ。

 

934 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 16:00:47.85 ID:ZuAQE2Md0

俺が言うことを二人は黙って、聴いていてくれた。
俺が話し終えるまで、二人は一切口を挟まなかった。
自分が想うことをすべて話終えた俺は、二人の言葉を待っていた。
どんな罵詈雑言も受け入れるつもりだった。だが二人の口からでてきた言葉は意外なものだった。
霧島「・・・で、あんたは今何しているのよ?」
キョン「え?」
霧島「私たちに想う事言ってそれで終わりじゃないでしょ?佐々木さんに言いたいことがあるんでしょ?」
キョン「・・・・・・」
霧島「だったらこんなとこで、グダグダしてないで!早く佐々木さんのところに行ってあげなよ!この馬鹿キョン!」
陸奥「そうです、先生。千春ちゃんは私たちがお世話しますから早く行ってあげてください。」
二人は貶すどころか、俺を応援してくれた。こんな素敵な娘たちから想われていたなんて、身に余る幸福だ。
キョン「ありがとう、二人とも。」
霧島「いいから早く行く!馬鹿キョン!」
陸奥「頑張ってください!応援してます!」
二人の声援を背にうけて俺は、部室を後にした。

 

936 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 16:18:59.91 ID:ZuAQE2Md0

キョンの走っていく足音が聞こえる。それが段々聞こえなくなっていく。
「ぐすっ・・・うぅ〜・・・」
キョンの足音が小さくなるたびに、部室の中で大きくなっていく声。
霧島「何・・・泣いてるのよ。」
陸奥「霧島さんだって・・・泣いているじゃないですか。」
霧島「私が・・・泣くわけないじゃない。」
泣きたくなんてない。でも止まらない。
目から涙が零れる。でも悲しくはなかった。
これでいいという気持ちと、ちょっとだけの後悔。
陸奥「私は・・・駄目です。泣いちゃいます・・・。」
ゆうきの泣き声が部室に響く。
霧島「いつまで泣いてるのよ・・・顔グチャグチャじゃない。」
そんなゆうきを見てられなくて、顔をハンカチで拭いてあげる。
陸奥「霧島さんは、強いですね。」
霧島「強くないわ。いつまでも泣いているのが嫌なだけ。眼鏡とるわよ。」
陸奥「そういうのを強いっていうんですよ。」
ゆうきが笑う。眼鏡をとったゆうきの顔はとても綺麗だった。
陸奥「あの、霧島さん。私の顔、どうかしました。」
霧島「いや、可愛いなって思って。」
陸奥「か、からかわないでください。」
ゆうきの顔が真っ赤になる。それがまた可愛い。
霧島「こんな可愛い子を振るなんて、やっぱりキョンは馬鹿ね。」
陸奥「霧島さんも綺麗ですよ。」
霧島「ハルヒでいいよ。ゆうき。」
陸奥「あ・・・はい。ハルヒさん。」

 

938 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 16:31:28.31 ID:ZuAQE2Md0

佐々木が住むマンションの部屋の前に俺は着いた。
さっきからベルを何度も押しているが反応が無い。
あまり連続で押しても近所迷惑になるので、俺は手荒な手段に出ることにした
もう一回だけベルを鳴らし、ベルのマイクに話す。
キョン「佐々木。話したいことがあってきた。どうしても聴いて欲しいことがある。
    顔も見たくない気持ちは分かるが開けてくれ。でないと少し乱暴なことするけど、許してくれ。」
そしてまた一分ほど待ってみたが、やはり反応は無い。仕方が無い。
俺が助走をつけて佐々木の部屋のドアへ突進するのと、佐々木がドアを開けたタイミングは
奇跡と言っていいほどバッチリだった。
キョン「うお!?」
そのままの勢いで靴も脱げないまま、佐々木の部屋の中に突入してしまう。
高校球児のような見事にヘッドスライディングを決める俺。
佐々木「何の用だい?」
そんな俺をみても、佐々木はピクリとも笑いはしなかった。

 

940 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 16:51:25.13 ID:ZuAQE2Md0

リビングに案内され、二人で向き合って座る。
カーテンは閉まったままで、部屋は暗い。
佐々木の服装も家着だ。今日は家から出ていないみたいだ。
キョン「今日仕事はどうしたんだ?」
佐々木「そんなことを言いにきたのかい?なら帰ってくれるか。気分が悪いんだ。」
言いたいことがあるのに。言い出すことが出来ない。
キョン「お前は今幸せか?」
佐々木「何のことだい?」
自分でもなんで言ったか分からん。でも言葉に出ちまったんだ。
キョン「幸せかって聴いてるんだ。答えてくれ。」
佐々木「そうだね。人並みに給料もらって、自由に食べて、自由に寝て、自由に遊べる。
    これを幸せというなら、幸せだよ。」
キョン「俺は自分を幸せだと思う。ハルヒと出会って、結婚して、千春を授かった。」
佐々木「そうだね。」
キョン「そして俺とお前と千春の三人で一緒に暮らしてきた。俺は幸せにしてもらってばかりだ。」
俺は幸運だった。幸運すぎたと自分でも思う。
キョン「今度は俺が誰かを幸せにする番だ。」
だから俺はその幸運を少しずつ、返していきたい。
キョン「佐々木、俺はお前に幸せになってほしい。でも、俺の知らない誰かに幸せにしてもらうんじゃなくて。」
その、幸運を返す先はお前以外考えられない。
キョン「俺が幸せにしたいんだ。」

 

942 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 17:10:11.57 ID:ZuAQE2Md0

キョン「都合のいいこと言ってるのは分かっている。駄目かな?」
佐々木「今更遅いよ…そんなこと。」
やっぱりそうだよな・・・。俺は時機を逃してしまったんだ。
佐々木「5年、いや中学の頃から、10年以上だ。ずっと待ってた。
    涼宮さんと結婚したと聞いた時、やっと諦められると思った。
    でも出来なくて。キョンと千春と過ごす内に、二人の存在が大きくなっていくのを感じていた。
    二人がいないと眠れない夜もあった。でも君の心には涼宮さんがいて、私はいなかった。
    それを認めるのが怖くて、ずっと逃げてた。」
佐々木が胸のうちを話してくれる。その苦しみは涙になって佐々木の目から溢れていた。
佐々木「でも、やっと君の心の中にいる私を見つけた。こんな嬉しいことは無い。」
俺が椅子から立ち上がる。それにあわせて佐々木も立つ。俺たちは抱きしめあった。互いの思いを確認するために。
佐々木「私も君を幸せにしたい。君と千春と共に生きていきたい。」
始まりはどちらか分からない。だが触れるように優しいキスだった。互いの熱を交換するために。

 

944 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 17:13:35.61 ID:ZuAQE2Md0

セクロスシーンはskipしますか?
1、はい
2、いいえ

 

987 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 19:52:29.52 ID:ZuAQE2Md0

スキップの方向で。

朝。目を覚ますと見慣れない風景だった。どこだっけここ。
そうか、あの後・・・。俺たちは繋がった。
最初は優しく出来ていたが、2回目からはどうだったかはわからない。
ゴムもつけずに、互いを貪るように愛し合った。
それ程に俺たちは互いに求めていながら、拒否し続けてきたのだ。
佐々木「起きた?」
キョン「あぁ。」
そして一度繋がってしまうと、佐々木を見る目が前とは全然違う。
俺は佐々木の身体を征服し、佐々木は守るべきものになった。
佐々木「ご飯できてるけど?」
佐々木にも前には無かった、艶っぽい空気が流れている。
男女の仲とはそういうものなのかもしれない。
1度繋がらなければ、見えてこないものが沢山あるんだ。

 

992 名前: VIPがお送りします 投稿日: 2009/05/28(木) 20:02:20.74 ID:ZuAQE2Md0

リビングで朝飯を食べる。トースターにサラダといった簡素なものだが、おいしい。
「「・・・・・・」」
妙な沈黙が流れる。互いに話したいに、話せない。好きだからこその沈黙。
「「あのさ」」
なんというベタな展開。どこのトレンディードラマだ。
キョン「今更、こんな風に恥ずかしがるなんてな。」
佐々木「本当だよ。あれだけあられもない姿を見せておきながら」
でもそれがたまらなくおかしい。
佐々木「千春はどうしてるんだい?まさかほったらかしではないだろうね。」
キョン「いや、霧島と陸奥が面倒見てくれてる。」
佐々木「二人に話したの?」
キョン「あぁ。それが通すべき筋ってもんだ。」
あの子たちは生徒としてでなく、女性として俺を好きだといった。ならば男として答えなくてはいけない。
佐々木「そうか。」